(2023.03.13)マイナンバーカード取得を保育料、学用品費及び給食費の免除の要件とする岡山県備前市の施策について再考を求める会長声明

1 岡山県備前市では、市内の保育園、認定こども園(以下「保育園等」という。)については、備前市立保育園設置条例等の改正により、2017年度までに保育園等に通園する全園児の保育料無償化を実施した。
 また、2022年度からは、国の交付する新型コロナウイルス感染症対策対応地方創生臨時交付金を用いた備前市が実施する保護者支援事業によって、市内の小中学校の児童生徒の学用品費や給食費(以下「学用品費等」という。)についても補助金により、無償化を実現している。
 このように、備前市は、保育園等に通園する園児、小中学校へ通学する児童生徒の保護者の経済的負担の軽減を目的として、保育料や学用品費等を無償化する子育て支援(以下「学用品費等無償化」という。)を従前より行なっていた。

2 しかし、2022年12月16日付けで備前市教育庁教育振興部は、市内の保育園等の園児及び小中学校の児童生徒の保護者に対して、「令和5年度の保育料等について」、「令和5年度の給食費及び学用品費について」と題する文書を交付した。
 この文書には、2023年度より、「児童・生徒(園児)及び世帯員の全員がマイナンバーカードを取得している場合、申請により(保育料等が)納付免除となります。」と記載されており、従前の学用品費等無償化を改め、世帯員全員がマイナンバーカードを取得した場合、申請により、保育料及び学用品費等の納付が免除されるという施策(以下「本施策」という。)に方針転換することが明らかにされた。
 そして、2023年2月20日に開会した備前市定例市議会において、本施策を実施するに当たり必要な規定を整備するためとして、「備前市立保育園設置条例」等の改正案及び「備前市立小学校及び中学校並びに認定こども園における学用品費の管理に関する条例」等の案が、備前市長によって提案された。

3 市町村が、市町村立保育園等に通園する園児及び市町村立小中学校に通学する児童生徒の保育料及び学用品費等の納付を免除することは、その保護者の経済的負担を軽減し、園児及び児童生徒の教育を受ける権利を保障するうえで有効であり歓迎すべき政策である。
 しかし、園児、児童生徒の世帯員がマイナンバーカードを取得しているか否かは、保育料、学用品費等の納付免除という保護者の経済的負担軽減措置の目的とは何の関係もない事項である。したがって、保育料、学用品費等の納付免除を受けるために世帯員全員のマイナンバーカード取得という無関係な事項を要件とする備前市の本施策は、本来、公平でなければならない教育や行政サービスに対して、世帯全員がマイナンバーカードを取得している園児、児童生徒及びその保護者とそうでない園児、児童生徒及びその保護者との間に合理的理由のない差別を持ち込むことになり、憲法第14条の平等原則に反するものである。
 また、備前市の本施策は、世帯員全員がマイナンバーカードを取得している場合に、申請により、保育料、学用品費等の納付を免除するというものであり、世帯を同じくする園児、児童生徒の保育料、学用品費等の納付免除と引き換えに、保護者ら世帯員全員のマイナンバーカード取得を事実上強制する効果を持つことは明白である。憲法第13条に基づく自己情報コントロール権のもと、マイナンバーカードに情報が集約されるのを拒否する自由もまた尊重されるべきである。
 よって、当会は、備前市に対し、世帯員全員のマイナンバーカード取得を保育料、学用品費等の免除の要件とする備前市の本施策について再考を求める。

 
2023年(令和5年)3月13日

岡山弁護士会     
会長 近 藤   剛

 
 


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