(2012.11.21)生活保護基準の切り下げに反対する会長声明

生活保護基準の切り下げに反対する会長声明
1  2012年(平成24年)8月10日、社会保障制度改革推進法が成立し、その附則2条において、生活保護の「給付水準の適正化」が明記され、8月17日に閣議決定された「平成25年度の概算要求組替え基準について」では「生活保護の見直しをはじめとして合理化・効率化に最大限取り組み、その結果を平成25年予算に反映させるなど、極力圧縮に努める」ものとされており、生活保護の削減方針が示されている。そして、財務省は10月22日、財政制度等審議会に生活保護基準切り下げに向けた具体的提言を行い、同審議会において、平成25年度の予算編成に向けた生活保護制度の見直しの議論が始められた。
  これらの動きからすれば、平成25年度予算編成において、政府が生活保護基準切り下げに動く可能性が極めて大きい情勢である。
2  しかし、生活保護は憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を具体化した最後のセーフティネットであって、生活保護基準は生存権保障の水準を具体化して「健康で文化的な最低限度の生活」を決する極めて重要な基準である。
 生活保護受給者の増加が問題視されることが多いが、実際には生活保護の捕捉率(生活保護を受給する資格がある人のうち、実際に生活保護を受給している人の割合)は2010年(平成22年)時点でも2割〜3割程度(平成22年4月9日付け厚生労働省発表「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計について」)にとどまっている。本年になってからも札幌市、さいたま市、立川市などで餓死孤立死が相次いで発生しているが、こうした事例は生活保護を受給していれば防ぐことができた可能性が高いのである。このように、生活保護が必要な人々に行き渡っていないという現状であるにもかかわらず、生活保護受給者の増加が問題であるとして生活保護基準を切り下げて生活保護の受給にさらに厳しい要件を課すことは、本末転倒である。そのようなことがなされれば、生活困窮者を更に増大させ、あるいは、その抱える問題を更に大きなものにすることが容易に想像されるのである。
  また、生活保護基準は、最低賃金、課税最低限度額、社会保険の自己負担額の基準とも連動しており、基準の切り下げは生活保護受給者だけでなく、それ以外の低所得者層の更なる貧困化を招くことになる。
3  このような生活保護基準の重要性からすれば、その基準のあり方については、2011年(平成23年)2月に発足した社会保障審議会生活保護基準部会における学識経験者らの専門的検討も踏まえ、生活保護受給者の生活実態も考慮して慎重に決せられるべきであって、財政目的の安易な基準切り下げがあってはならない。
4  岡山県は、津山市出身で国立岡山療養所(現在の独立行政法人国立病院機構南岡山医療センター)に入院していた故・朝日茂氏が、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」「人間が人間らしく生きる権利」の保障を求めた「朝日訴訟(人間裁判)」を提起し、その後の生活保護基準の改善や社会保障制度の発展に大きく貢献した地でもあり、当会にとって、今般の生活保護基準の切り下げの動きは到底看過することができないものである
 以上のとおり、当会は、来年度予算編成における生活保護基準の切り下げに強く反対する。
以上
2012年(平成24年)11月21日
                                                     岡山弁護士会
                       会 長  火 矢 悦 治

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