(2023.06.16)最低賃金の大幅引上げを求める会長声明

1 中央最低賃金審議会は、本年7月頃、厚生労働大臣に対し、本年度の地域別最低賃金額改定の目安についての答申を行う予定である。例年、各地域の地方最低賃金審議会は、この目安を参考として、地域別最低賃金額を各労働局長へ答申し、その答申を受けて各労働局長が具体的金額を決定する。
 昨年、岡山労働局長は、岡山地方最低賃金審議会の答申を受け、地域別最低賃金額を時給892円とする決定を行っている。
 しかしながら、以下に述べるとおり、時給892円という水準は、未だ余りに低過ぎるものと言わざるを得ない。

2 最低賃金制度の目的は、賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上等を図ることにある(最低賃金法第1条)。
 しかし、時給892円という水準では、フルタイム(1日8時間)で1か月22日間働いても、月収は15万6992円(年収は188万3904円)にとどまる。現時点の我が国の社会状況に鑑みた場合、同金額をもってしては、各種の給付の存在を考慮したとしてもなお、労働者が健康で文化的な生活を営んでいくこと、子どもを生み育てていくことは極めて困難である。したがって、上記金額では、法の目的を達成するに足りる水準に達しているとはいえない。

3 また、コロナ禍で経済が停滞する状況下においても、多くの国で、最低賃金の大幅引上げが実現している。
 例えば、フランスでは、2022年8月に10.85ユーロ(1604.52円)から11.07ユーロ(1637.05円)に、また2023年1月には11.27ユーロ(1666.63円)に引き上げられた。ドイツでは、2022年10月に10.45ユーロ(1545.37円)から12ユーロ(1774.58円)に引き上げられた。イギリスでも、2023年4月から9.5ポンド(1615.22円)から10.42ポンド(1771.64円)に引き上げられた。

4⑴ 現在の最低賃金法は地域別最低賃金制度を採用しているため、2022年度地域別最低賃金を見ると、最も高い東京都では時給1072円であるのに対し、最も低い青森県、秋田県、愛媛県、高知県、佐賀県、長崎県、熊本県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県は時給853円であり、219円もの賃金格差が生じている。
 岡山県でも、隣接する広島県の最低賃金(930円)とは38円、同じく兵庫県の最低賃金(960円)とは68円もの格差が生じている。1日8時間、1か月22日間働くとすると、1か月分の賃金格差は、広島県との間で6688円、兵庫県との間で1万1968円にもなる。
 しかも、このような賃金格差は、年々拡大している。2009年度の最低賃金は、岡山県が670円であったところ、広島県は692円(22円差)、兵庫県は721円(51円差)であった。
 最低賃金の高低と人口の転入出には強い相関関係がみられるところ、このような事態を放置すれば、今後、さらに賃金格差が拡大し、岡山県外に労働力が流出する事態につながりかねない。
 都市部への労働力の集中を緩和し、地域に労働力を確保することは、地域経済の活性化の上でも有益であるから、政府においても、早急に、最低賃金の地域間格差の是正、全国一律最低賃金制度を実現すべきである。

 ⑵ 地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費は、最近の調査によれば、都市部と地方の間でほとんど差がないという分析がなされている。これは、都市部以外の地域では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限され、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされることが背景にある。そもそも、最低賃金は、労働者が「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されない。労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない以上、全国一律最低賃金制度を実現すべきである。

 ⑶ また、厚生労働省の中央最低賃金審議会に設置された「目安制度の在り方に関する全員協議会」が本年4月6日にまとめた報告は、現行のAないしDの4段階の目安区分を3段階とすることを提案している。しかし、これではCランクの引上額を、Aランクの引上額より大幅に上回るものとするなど抜本的な方策でも採らない限り、地域間格差の迅速な解消は望めない。

5 一方、我が国の経済を支えている中小企業が最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行えるよう、充分な支援策を講じることも必要である。現在、国は「業務改善助成金」制度により、最低賃金の引上げにより影響を受ける中小企業に対する支援を実施している。しかし、この制度は中小企業にとって必ずしも使い勝手の良いものではなく、利用件数はごく少数にとどまっている。具体的な支援策としては、社会保険料の減免や減税等が有効であると考えられる。

6 政府は、もともと、2010年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」において、2020年までに全国加重平均1000円にするという目標を明記しており、2023年3月15日、岸田首相は、政労使会議において、最低賃金の全国加重平均を2022年の961円から23年に1000円へ上げる目標を示していることから、政府目標を達成するために最低賃金の大幅な引き上げが必要不可欠である状況に変わりはない。

7 以上より、当会は、中央最低賃金審議会に対して、全国加重平均1000円を実現できるような引上げを内容とする答申をすることを求める。また、岡山地方最低賃金審議会に対しても、早急に地域間の最低賃金格差を是正し、最低賃金を1000円以上に引き上げることを求めるとともに、同審議会における審議の公正及び透明性を確保するため、同審議会の意見に関する異議申出についての審議を含め、審議の全面公開を求める。
 さらに、岡山労働局長に対して、1時間あたりの地域別最低賃金額を1000円以上に決定することを求める。

 
2023年(令和5年)6月16日

岡山弁護士会     
会長 竹 内 俊 一

 


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