(2023.05.19)反撃能力の保有に反対する会長声明

 政府は、2022年12月16日、国家安全保障戦略、国家防衛戦略及び防衛力整備計画を閣議決定した。政府はその中で、我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力行使の3要件に基づき、攻撃を防ぐためにやむを得ない必要最小限度の自衛措置として、相手の領域において我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力(侵攻する相手方の脅威圏外から対処する長射程の攻撃能力をいう。)等を活用した自衛隊の能力(反撃能力)を抜本的に強化するとしている。
 2015年の安全保障法制以前の政府解釈(以下「政府解釈」という)によれば、憲法9条2項のもとでの自衛権発動は、①我が国に対する武力攻撃が発生し、②他に適当な手段がなく、③これを我が国領域外に排除するための必要最小限度の実力行使に限られており(自衛権発動の3要件)、我が国は、憲法のもとにおいて受動的な防衛戦略である専守防衛を基本方針としている。
 この従来の政府解釈によれば、他国の攻撃を防御する方法が他に全くない場合には、敵基地攻撃は法理的には自衛の範囲内に含まれるとされるものの、性能上専ら相手国の国土の壊滅的破壊のために用いられる攻撃的兵器(大陸間弾道ミサイル、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母等)を保有することは自衛のための最小限度の範囲を超えるため、自衛権行使の第三要件に違反すると理解されてきた。今回の閣議決定による反撃能力とは、弾道ミサイル攻撃等に対して、我が国が長距離ミサイルにより他国領域を攻撃することであり、まさに従来の政府解釈が否定してきた攻撃的兵器を保有して使用しようというものであるから、憲法9条2項に関する政府解釈を明らかに逸脱する。
 加えて、2022年5月17日の政府答弁書において、安全保障法制に基づく集団的自衛権の行使に関しても、法理上は敵基地攻撃も許されるとの考えが示されている。従って、我が国が反撃能力を保有することとなった場合、我が国に対する武力攻撃がないにも拘わらず、我が国と密接な関係にある他国への武力攻撃に対し、我が国が集団的自衛権行使として相手国領域への攻撃を行うことが可能となるものである。しかしながら、当会は、2014年5月14日と2015年7月16日に、集団的自衛権行使を容認する安全保障法案強行採決等に反対する会長声明において、集団的自衛権行使を容認する安全保障法制等は憲法9条に違反するとの立場を表明しているところ、集団的自衛権行使として相手国領域への攻撃を行うとすれば、それは先制攻撃、つまり、侵略行為にほかならず、憲法9条1項に違反する。
 また、この度の反撃能力保有は、憲法9条に係る政府解釈を逸脱して受動的防衛戦略を攻撃的防衛戦略へと大転換させるだけでなく、国際法が禁止する先制攻撃を認めるものであるにも拘わらず、国会審議もなく、閣議決定により行われたものであり、憲法原理である立憲主義、民主主義、国民主権にも違反する。
 当会は、2014年以降、集団的自衛権行使の容認、法制化に対して強く反対してきた。今回の閣議決定は集団的自衛権行使容認から更に進めて、我が国による海外での武力行使に道を開くものであるから、当会はこの閣議決定が憲法9条に違反するものであることを指摘し、これに断固反対する。

 
2023年(令和5年)5月19日

岡山弁護士会     
会長 竹 内 俊 一

 


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