面会室における写真撮影に関する東京高裁判決に対する会長声明

面会室における写真撮影に関する東京高裁判決に対する会長声明

1 本年7月9日,東京高等裁判所第2民事部は,弁護人が面会室内で写真撮影を行っていたことを理由に,拘置所職員が接見を中断・終了させた行為について,同弁護人の国家賠償法に基づく損害賠償請求を一部認めた原判決を取消し,同弁護人の請求を全て棄却する逆転判決を言い渡した。
2 原判決は,弁護人が行った面会室内での写真撮影は,将来,公判等において使用すべき証拠を収集,保持しておくという証拠保全を主な目的としており,接見交通権に含まれないとしながらも,接見交通権は憲法で保障された権利であるので,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律117条,113条に基づいて,弁護人に対して面会を一時停止または終了させることができるのは,未決拘禁者の逃亡のおそれ,罪証隠滅のおそれ,その他刑事施設の設置目的に反するおそれが生ずる相当の蓋然性があると認められる場合に限るとし,拘置所職員が接見を中断・終了させた行為は違法であるとした。
3  しかし,本判決は,刑訴法39条の「接見」と「書類もしくは物の授受」が区別されていること,同規定が制定された当時はカメラやビデオ等の撮影機器は普及しておらず,弁護人が被疑者・被告人を写真撮影したり動画撮影することは想定されていなかったことを理由に,写真撮影,動画撮影は接見交通権の範囲外とした上で,さらに,東京拘置所長は,庁舎管理権に基づいて面会室内へのカメラの持ち込みや撮影を原則として禁止することができるとした。そして,これに反する面会は,どのような場合でも,面会を一時停止または終了させることができると判示し,弁護人の請求を棄却した。
4 そもそも,接見交通権は,身体の拘束を受けている被疑者・被告人が外部の人物と面会等する権利であり,その中でも弁護人との接見交通権は,憲法34条で保障されている弁護人依頼権の中核をなす刑事手続上の極めて重要な権利である。弁護人は,面会室内で被疑者・被告人と立会人を置かずに接見でき,当然ながら被疑者・被告人から事情を聴取する際に弁護人がメモをとることを想定している。そして,弁護人が被疑者・被告人を面会室内で写真撮影をしたり動画撮影をすることは,それによって被疑者・被告人の話や所作等を記録するために行うのであるから,面会状況の記録という意味では何らメモと異なるところはない。従って,弁護人が被疑者・被告人を写真撮影したり動画撮影することは,接見交通権の範囲内の行為であると言うべきである。
また,被疑者・被告人が捜査官等から有形力の行使を受けたと訴えた場合には,その痕跡を直ちに保全する必要があり,写真撮影はそのための有効な手段である。この点,本判決は,かかる場合は刑訴法179条の証拠保全を行えば足りるとする。しかし,証拠保全の手続を待っていては証拠保全の目的を十分に達せない場合があり,本判決の指摘は妥当でない。
さらに,本判決は,被疑者・被告人の逃亡のおそれ,証拠隠滅のおそれ,庁舎内の秩序の乱れ,警備保安上支障をもたらすおそれ等を理由に,拘置所長の庁舎管理権に基づいて面会室内へのカメラ持ち込みや撮影を禁止できるとするが,いずれも抽象的危険にすぎず,カメラの持ち込みや撮影禁止の根拠たり得ない。かつ,本判決の論理によれば拘置所長の庁舎管理権の裁量をより広範囲で認めることとなり,接見交通権の侵害になるとともに,ひいては弁護人の弁護権の制約につながりかねず,本判決は極めて不当である。
5 以上より,本判決は,刑訴法39条の解釈を誤った判決であるとともに,拘置所長の庁舎管理権を広範囲で認める極めて不当な判決であるので,本会は強く抗議する。

2015年(平成27年)9月30日

 岡山弁護士会
 会長 吉 岡 康 祐

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