(2022.07.14)熊本地方裁判所判決及び東京地方裁判所判決を高く評価し、国に対し、生活保護基準の見直しを求める会長声明

1 はじめに
 熊本地方裁判所は、2022年5月25日、2013年8月から3回に分けて実施された生活保護引下げ処分(以下「本件引下げ」という。)の取消しを求めた訴訟において、当該処分を取り消し、原告の請求を認容する判決を言い渡した(以下「熊本地裁判決」という。)。また、東京地方裁判所も、同年6月24日、同種の訴訟において、原告の請求を認容する判決を言い渡した(以下「東京地裁判決」という。)
 岡山を含む全国29の地方裁判所で30の原告団が同種訴訟を提起しているが、これまでに言い渡された11の判決のうち、原告の請求を認容したのは、2021年2月22日の大阪地方裁判所判決に次ぎ3例となった。

2 本件引下げの内容
 本件引下げは、一般低所得世帯の生活水準を比較して生活保護基準を調整する「ゆがみ調整」と、物価下落による影響を考慮して生活保護基準を調整する「デフレ調整」という2つの理由により行われた。
 しかしながら、厚生労働大臣は、これら2つの調整を行う上で、厚生労働省の諮問機関である社会保障審議会生活保護基準部会による分析及び検討を経ることなく、厚生労働省独自の判断で行っていた。そのため、計算の基礎となった数値が恣意的に作られていたり、計算結果を適切に反映していなかったりするなど、多数の問題をはらむ基準改定であった。
 そのような恣意的な検討の結果、本件引下げは、合計670億円にも及ぶ史上最大の引下げ処分となった。

3 判決の内容
 今回、原告の請求を認容した熊本地裁判決は、「ゆがみ調整」と「デフレ調整」のいずれについても、また、「ゆがみ調整」と「デフレ調整」を併せて行ったことについても生活保護基準部会に諮問していないことを指摘し、専門的知見を踏まえた適切な分析及び検討・検証を怠ったと述べ、判断過程に過誤、欠落があると認められ違法であると判断したものである。
 東京地裁判決は、「デフレ調整」については、専門家によって構成される会議体による審議検討を経たものでないため、被告側で十分な説明をすることを要するが、被告らの説明を踏まえても「デフレ調整」の必要性も相当性も認められないと述べ、判断過程に過誤、欠落があると認められ違法であると判断したものである。
 熊本地裁判決及び東京地裁判決は、専門家の意見を考慮しない「行政裁量」に基づく本件引下げに対し、司法統制を及ぼしたものとして高く評価できる。

4 岡山の状況
 岡山地方裁判所でも、本件引下げについて、当会の会員が中心となって弁護団を組み、訴訟係属中である。
 当会においては、本件引下げに先立つ2012年11月21日、「生活保護基準の切り下げに反対する会長声明」を発していた。
 岡山は、かつて、朝日茂氏が、当時の生活保護基準は憲法25条1項の健康で文化的な最低限度の生活を営むための権利を侵害しているとして争った朝日訴訟の地である。この朝日訴訟は、人間にとって生きる権利とは何かを真正面から問いかける意味で「人間裁判」とも呼ばれ、岡山県内にはこの人間裁判の石碑も存在している。本件引下げの違法性を争っている一連の訴訟は「新・人間裁判」として注目を集めているものである。
 さらに、昨年2021年5月8日に当会が開催した「withコロナ時代のいま『生活保護』を考える~私たちの命、生活、文化を支えるセーフティネット~」と題した憲法記念県民集会においても、本件引下げの問題性について指摘がなされていた。

5 最後に
 当会としては、少数者の人権保障という司法府の職責を果たした熊本地裁判決及び東京地裁判決を高く評価する。
 そして、当会としては、岡山県内で同様の問題に悩む多くの生活保護利用者がいることも踏まえて、改めて国に対し、早急に現在の生活保護基準を見直し、2013年7月以前の生活保護基準に戻すことを求める。

以上

 

2022年(令和4年)7月14日

岡山弁護士会     
会長 近 藤   剛

 
 


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