(2021.03.04)特定商取引に関する法律における契約書面等の電子化に反対する会長声明

第1 声明の趣旨
 当会は、特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。)において規制対象とする訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売取引及び訪問購入の各取引類型における概要書面及び契約書面について、電磁的方法による交付を可能とする法改正に反対する。


第2 声明の理由

1.特商法上の書面交付義務に関する法改正の動き
 2020年11月9日に開催の規制改革推進会議・第3回成長戦略ワーキンググループにて、オンライン上で提供される英会話指導(特定継続的役務提供)を契約する際、特商法で紙の書面の交付義務が定められているところ、書面の交付を郵送を用いて行う必要があり、手続きがオンライン上で完結せず、支障があるとの指摘がなされ、これに対し、消費者庁は、「デジタル化を促進する方向で、適切に検討を進めていく」と回答した。
 さらにその後、消費者庁は、2021年1月14日開催の内閣府消費者委員会本会議において、オンライン上で提供される特定継続的役務提供だけではなく対面での取引が想定されている訪問販売、連鎖販売取引、業務提供誘引販売取引、訪問購入も含めた特商法で規制対象とされている全取引類型について、消費者が承諾した場合には、概要書面及び契約書面を電磁的方法による交付を可能とするための特商法の改正を今通常国会に提出予定であると表明した。

2.特商法の書面交付義務の意義及び書面交付義務の電子化による弊害
 特商法は、規制対象とする、訪問販売、通信販売及び電話加入販売に係る取引、連鎖販売取引、特定継続的役務提供に係る取引、業務提供誘引販売並びに訪問購入を公正なものとすることで、消費者が被る虞のある被害の防止を図り、消費者の利益を保護すること等を目的とするものである(特商法1条参照)。
 その特商法が定める概要書面及び契約書面の交付は、①契約締結前における情報提供、②契約締結後における契約内容を熟考する機会の確保、③クーリング・オフ権や中途解約権などの購入者等の権利行使に関する情報提供等の消費者保護の観点から重要な意義を有している。
 そして、一般に、概要書面及び契約書面の契約内容等の記載は一覧性があり、また、文字サイズも8ポイント以上の活字で記載することとされており、消費者が商品名・数量・金額・販売業者名・住所・電話番号・解除権の内容等の重要な記載事項を確認できるようにしている。
 しかしながら、概要書面及び契約書面が電子化された場合、スマートフォンなどを用いて、契約内容等を確認することになるが、スマートフォンの画面では、契約内容等を確認するためには、画面のスクロールや拡大の操作によって積極的に探さなければ必要な情報を確認することができず、どのような事項が記載されているかについて予備知識がなければ、必要な契約条項を探し当てることは難しくなる。
 さらに、年代を問わず、スマートフォンなどのデジタル機器の操作が不得手な者も一定数存在することから、保存された概要書面及び契約書面の電子データを読み返すことができず、熟慮の機会を喪失する事態の発生も考えうる。
 消費者庁は、概要書面及び契約書面の電磁的方法による交付は消費者の承諾を要件とすることを検討しているが、すべての消費者が上記のような概要書面及び契約書面の意義・重要性を充分に認識しているとは必ずしも言えないのが現状である。社会的経験が不足する若年者やオンライン取引に疎い高齢者等に関しては、上記の点を充分に理解しないまま、承諾することも十分に考えうる。

3.結語
 電気通信事業法や金融商品取引法等、一定の分野においては、既に、書面の電磁的方法による提供が可能とされているところであるが、これらの分野においては事業者の登録制又は許認可制といった参入規制が採用されている。これに対し、特定商取引法においては、参入規制が採用されておらず、行政や自主規制団体が全ての事業者の業務の状況を把握しているわけでもなく、現実に悪質な事業者は存在する。
 一般論としては書面電子化の有用性を否定するところではないが、特商法において交付が義務づけられている概要書面及び契約書面については、電磁的方法による交付を可能とすることは反対する。

以上

2021年(令和3年)3月4日

岡山弁護士会     
会長 猪 木 健 二

 
 


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