(2021.03.04)東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会前会長森喜朗氏の女性蔑視発言に抗議し、男女共同参画の実現を目指す会長声明

 

1 東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会(以下「組織委員会」という。)会長であった森喜朗氏(以下「森氏」という。)は、2021年2月3日、日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会で、「テレビがあるからやりにくいが、女性理事4割は、これは文科省がうるさくいうんでね」とのスポーツ庁が定めた女性理事を40%以上とするとのガバナンスコードに対する批判的な発言に続けて、「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」、「女性っていうのは競争意識が強い、誰か1人が手をあげていうと、自分も言わないといけないと思うんでしょうね」、「(女性を)増やしていく場合、発言の時間をある程度、規制をしていかないとなかなか終わらないので困ると言っておられた」、「私どもの組織委員会にも女性は何人いたっけ?(中略)7人くらいおりますが、みんなわきまえておられて」などと発言した。
 上記発言は、客観的事実に基づかないのみならず、会議で発言が長いのは女性という性別そのものに根拠があるとし、女性の理事を増やしていくのであれば、その発言の時間を規制する必要があるなどとして女性に「わきまえる」ことを求める明確な女性蔑視発言であり、日本国憲法第14条(法の下の平等)や同第24条(両性の本質的平等)に明らかに反するものである。
 また、オリンピック憲章には、オリンピズムの根本原則として「オリンピズムの目的は、人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てることである。」こと、「このオリンピック憲章の定める権利および自由は人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、国あるいは社会的な出身、財産、出自やその他の身分などの理由による、いかなる種類の差別も受けることなく、確実に享受されなければならない。」ことが定められているところ、会議における女性の発言が長いと決めつけ、会議における女性の自由な発言を規制する必要がある旨の森氏の上記発言はオリンピック憲章の精神にも反するものである。
 森氏は上記発言を撤回・陳謝し、組織委員会会長を辞任したが、上記発言は会議における女性の発言を萎縮させるものであるとともに、今なお日本社会に存在する性別に基づく差別、不平等な取り扱いを固定化、増長するものであり、看過できるものではない。また、報道によれば、日本オリンピック委員会の臨時評議員会における森氏の発言をその場でただした者はいなかったというのであるから、この問題は組織委員会の会長であった森氏個人の問題にとどまらず、日本オリンピック委員会という団体においても、根強い女性差別の思想がいまだに蔓延しているのではないかということが強く疑われるところである。

2 さらに、森氏の発言は日本国内にとどまらず、瞬時に海外メディアにおいても報道され、コロナ禍における東京オリンピック・パラリンピックの開催を控えた重要な時機に、いみじくも日本社会におけるジェンダー平等に対する対応の著しい遅れが指摘されることとなった。
 政府は、両性の本質的平等(憲法第24条)の理念を踏まえ、男女共同参画社会の実現に向け、社会のあらゆる分野において2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度となるよう期待するという目標を2003年に閣議決定した。しかし、目標設定から18年が経過した現在も、衆議院の女性議員比率は9.9%(世界190か国中163位)にとどまるなど、上記数値目標達成にはほど遠い状況である。そして、世界経済フォーラム(WEF)の2020年男女平等指数では、日本は153カ国中121位であり、とくに森氏の活躍してきた政治分野における順位は144位と4つの分野において最も低く、前年よりも全体の順位を下げた大きな要因となっている。このような状況に甘んじているのは、森氏の上記発言に象徴される性差別意識が未だに日本社会全体に根強く存在していることが原因であると考えられ、男女共同参画社会の実現のためにはこの点を再認識し、あらためて性差別解消に向けた取り組みを行うことが必須である。

3 以上のことから、当会は、森氏の上記発言について厳重に抗議するとともに、日本オリンピック委員会及び組織委員会に対しては役員の女性比率を速やかに40%以上にすることに加え、オリンピック憲章の精神に基づき、あらゆる差別をなくし、自由闊達な議論を抑制することなく会議を運営すること、内閣府に対しては、第5次男女共同参画基本計画において、指導的地位に占める女性の割合を30%とする具体的な施策の策定及びその強力な推進を求める。
 また、当会は、性差別をはじめとするあらゆる差別の解消や女性がその個性と能力を十分発揮できる男女共同参画社会の実現に向けてより一層積極的に取り組んでいく所存である。

以上

2021年(令和3年)3月4日

岡山弁護士会     
会長 猪 木 健 二

 
 


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