(2019.11.20)クレジット過剰与信規制の緩和に反対する会長声明
クレジットカード等の与信規制に関し,本年5月29日,経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会は,「中間整理~テクノロジー社会における割賦販売法制のあり方~」(以下「中間整理」という。)を公表し,次のような方向性を示した。すなわち,①「技術やデータを活用した与信審査方法」を使用する場合,支払可能見込額調査義務(割賦販売法30条の2第1項)を課さず,②その場合,指定信用情報機関への信用情報の照会義務(同法30条の2第3項)も課さない,③少額・低リスク(利用限度額10万円以下を想定)のサービスでは、指定信用情報機関への信用情報の照会義務・基礎特定信用情報の登録義務(同法35条の3の56第2項及び第3項)も課さない,というものである。
中間整理の示すこれらの方向性は,クレジットの過剰与信や多重債務が問題となり、平成20年にそれらの問題に対処すべく割賦販売法の改正で導入された規制を大幅に緩和しようとするものである。
しかし,上記①支払可能見込額調査義務を免除することは、包括支払可能見込額を定め、クレジット業界全体として統一的な基準を定めることで、過剰与信を防止しようとした割賦販売法の改正の趣旨を大きく損なうことになる。中間整理が言及する「技術やデータを活用した与信審査方法」は、現行の支払可能見込額調査に相当する客観的に合理的な審査方法であることを担保しない。現実に、多様な与信審査基準を用いることとなった場合、それらについて、現行の支払可能見込額調査に相当する合理的な審査方法であることを確認していくことは、極めて困難といえる。
また,上記②信用情報の照会義務を課さないことについては,現在でも過剰与信で返済できない事態が生じているが,さらに信用情報機関の信用情報を照会しなくなれば,他社で既に多重債務に陥っている事実を把握できず,多重債務が増加するおそれが大きい。
上記③少額・低リスクのサービスについても,少額ずつでも多数累積すれば多重債務のおそれがあることや,既に他社で多重債務に陥っている場合もあるため,信用情報の照会義務を免除すべきではない。さらに,基礎特定信用情報の登録は,業界全体で債務額を集約し相互利用して過剰与信を防止する役割があり,情報の登録がなくなれば,過剰与信の増加につながるおそれがある。
とりわけ,キャッシュレス決済の普及に伴いクレジットカード利用者による過剰な債務負担のリスクが高まり,また,成年年齢引下げにより若年層の多重債務増加も懸念される状況にあって,過剰与信を防止するため,最低限,現行の割賦販売法による規制は,堅持されるべきである。
よって,当会は中間整理で示されたクレジット過剰与信規制の緩和の方向性に反対する。
2019年(令和元年)11月20日
岡山弁護士会
会長 小 林 裕 彦