(2025.07.10)死刑執行に関する会長声明
2025年6月27日、東京拘置所において、死刑が執行された。鈴木馨祐法務大臣が就任後、初の執行であった。期間にすれば2年11か月間、4代にわたる法務大臣が続けて死刑執行を命令しなかった状況での執行は、極めて遺憾である。
刑罰に係る判断は人間がする以上、誤判の可能性は排除しきれない。この誤判には、無罪の者を有罪とするえん罪のみならず、無期刑が相当である者に対し、誤って死刑を宣告するなど、量刑上の誤判も存在する。
特に死刑は、基本的人権の核をなす生命を剥奪する刑罰である。ひとたび執行されてしまえば、事後的に権利回復を図ることは不可能であり、誤判は絶対に回避しなければならない。この問題は、2024年、袴田事件において再審が開始されて死刑判決が覆り、無罪判決が確定したことで、改めて浮き彫りになった。
また、国際社会においては、死刑制度廃止が趨勢となっている。近年、法律上及び事実上の死刑制度廃止国は3分の2以上に上り、先進国グループとされるOECD(経済協力開発機構)加盟国(38か国)に限れば、死刑を国家として統一して執行しているのは日本だけである。
加えて、2023年1月31日、国連人権理事会の作業部会において、日本の人権状況に関する普遍的定期的調査が行われ、日本に関する勧告で最も多く挙げられた課題が死刑執行であった。日本政府は、死刑制度の廃止については世論を根拠に受け入れない旨を表明しているが、国連の自由権規約委員会からは、世論の動向にかかわりなく、死刑の廃止を考慮すべきと強く批判されている。
日本国内においても、2024年11月13日、有識者からなる「日本の死刑制度について考える懇話会」にて報告書が取りまとめられ、同報告書では、死刑制度について「現行の日本の死刑制度とその現在の運用の在り方は、放置することの許されない数多くの問題を伴っており、現状のままに存続させてはならない」とされている。
日本弁護士連合会は、2016年開催の第59回人権擁護大会で、「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し、国に対し死刑制度の廃止と刑罰制度全体の改革を求め、また2022年11月15日付けで「死刑制度の廃止に伴う代替刑の制度設計に関する提言」を取りまとめ、改めて死刑制度の廃止と代替刑としての終身拘禁刑の創設を政府・国会及び社会全体に提言している。また、中国地方弁護士会連合会においても、2019年開催の中国地方弁護士大会で、「死刑制度の廃止を求める決議」を採択した。
当会においても2023年、死刑廃止に関する総会決議を採択し、その中で、政府及び国会に対し、死刑廃止と矛盾しない犯罪被害者やその遺族に対する支援の拡充を求めるとともに、死刑廃止、代替刑創設に向けた議論を早期に開始し、死刑制度の廃止までの間、死刑の執行を停止することを求めていた。
当会としては、以上のことを踏まえ、今回の死刑執行に対しても改めて強く抗議するとともに、全ての死刑の執行を直ちに停止し、死刑制度を廃止する等の立法措置を早急に講じることを求める。
以上
2025年(令和7年)7月10日
岡山弁護士会
会長 土 居 幸 徳