(2022.03.04)大阪高等裁判所判決を受けて、国による上告断念と改めて旧優生保護法下における優生手術等の被害者の全面的救済を求める会長声明

1 2022年(令和4年)2月22日、大阪高等裁判所は、旧優生保護法に基づき強制不妊手術を強要された被害者らが提起した国家賠償請求訴訟の控訴審において、請求を棄却した一審判決を変更し、被害者らの賠償請求を認める判決を言い渡した(以下、「本判決」という。)。

2 本判決は、旧優生保護法の4条ないし13条の立法目的が、専ら優生上の見地から不良の子孫の出生を防止するものであり、それ自体、特定の障害ないし疾患を有する者を一律に「不良」であると断定する非人道的かつ差別的であって、個人の尊重という日本国憲法の基本理念に照らし是認できないとして、明らかに憲法13条(個人の尊厳)、14条1項(法の下の平等)に反して違憲であると断じ、このような立法を行った国会議員については少なくとも過失が認められ、国は国家賠償法1条による賠償責任を負うとした。
 その上で、民法724条後段の不法行為による除斥期間(平成29年法律第44号改正前民法による。以下同じ。)の適用をそのまま認めることは著しく正義・公平の理念に反するとして民法の時効停止の規定の法意に照らすと除斥期間の適用は制限されるとして、被害者らに対しては除斥期間の規定は適用されないと判断した。

3 旧優生保護法に基づき強制不妊手術を強要された被害者らは各地において国家賠償請求訴訟を提起しているが、除斥期間が経過しているとして請求を棄却する判決が続いていた。
 これに対して、本判決は、旧優生保護法の規定による人権侵害が強度である上、憲法の趣旨を踏えた施策を推進すべき国が、上記立法や施策によって障害者等に対する差別・偏見を正当化・固定化し、さらにこれを助長してきたことに起因して、被害者らが訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境にあったと認定し、時効停止の規定の法意を活用して、本判決に係る被害者らにおいては除斥期間が経過していないと判断した。

4 本判決は、旧優生保護法の上記規定を違憲であると断じた点や同法やこれに伴う国の施策により差別・偏見を正当化・固定化した上に相当に助長していたことによる司法へのアクセスの困難性という被害者の置かれた実情を丁寧に事実認定した上で、除斥期間の適用を制限し、強制不妊手術の被害者救済に道を開いた画期的判決であり、当会としては本判決を高く評価する。

5 もっとも、本判決では時効停止の規定の法意を活用できる被害者に限って救済が認められることにもつながりかねない。「衛生年報」、「優生保護統計報告」によると、優生手術の件数は約2万5000件であり、いまだ訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが困難な被害者らが多数いることは、「旧優生保護法に対する優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下、「一時金支給法」という。)による一時金の申請件数が1138件(2022年(令和4年)2月6日まで)(うち、認定件数966件(同年1月末まで))にとどまっており、およそ4.5%に過ぎないことからも明らかである。本判決も示すとおり、国による非人道的かつ日本国憲法では許容できない強制不妊手術を受けた被害者が子をもうけるか否かという幸福追求上重要な意思決定の自由(リプロダクティブ・ライツ)を侵害され、筆舌に尽くしがたい身体的・精神的苦痛を負ったことは明らかであり、被害者全員について除斥期間の規定を適用することなく全面的な救済が図られるべきである。

6 そこで、当会は、国に対し、本判決に対する上告を断念するよう求めるとともに、一時金支給法の補償額を見直すなどして、被害者全員に対し、適切な賠償がなされることによる真の被害の回復が図られるよう求めるものである。
 当会としては、引き続き二度とこのような被害が発生しないよう優生手術等を受けた被害者の救済に向けて取り組むとともに、誰もが人としてひとしく尊重され、差別されることがない社会になるよう基本的人権を擁護する活動を継続する決意である。

以上

 

2022年(令和4年)3月4日

岡山弁護士会     
会長 則 武   透

 
 


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