(2021.07.20)平成30年7月豪雨から3年を迎えての会長声明

1 はじめに
 平成30年7月豪雨の発生から3年を迎えた。岡山県内では,2021年(令和3年)6月末時点で,279戸・665人の被災者が今なお仮設住宅で暮らし生活再建の途上にあり,住宅再建ができ地元に戻れた被災者も元の生活やコミュニティを取り戻すべく復興の途上にある。
 当会は,被災者支援の一端を担うべく,発災直後より,無料電話相談,法律相談センターでの災害相談無料化及び被災地での出張無料相談会を実施し,被災者から1700件を超える相談を受けてきた。また,自然災害債務整理ガイドラインに係る登録支援専門家弁護士の委嘱依頼を203件受け,弁護士の推薦を行っている。災害ADR(災害に起因する紛争の和解あっせん)も実施しており,17件の申立を受けている。
 さらに,当会は,中国地方弁護士会連合会及び広島弁護士会と共同で令和2年10月2日に「平成30年7月豪雨 無料法律相談 相談データ集計及び分析結果」の公表をした。我が国で初めての大規模な豪雨災害における法律相談データの分析結果の公表となり,豪雨災害における被災者のニーズや被災者がかかえるトラブルを明らかにすることができ,弁護士に限らず自治体や民間支援団体の今後の災害時の被災者支援の参考になるものである。
 他方,上記の被災者支援活動を通じて,①仮設住宅に入居中の被災者のための住宅の確保と災害ケースマネジメントの実践,及び②災害関連死の事例をさらに公表することが,3年を迎えた岡山県内の被災地に残る課題の解決と今後の災害での人的被害を少なくするために必要であると痛感したことから,国,岡山県及び倉敷市に対し,以下の要望を行うものである。

2 仮設住宅に入居中の被災者のための住宅の確保と災害ケースマネジメントの実践
 当会は,2019年(令和元年)9月24日付「平成30年7月豪雨における住宅支援に関する会長声明」を発出して,災害公営住宅の建設数の増加を求めた。
 また,2020年(令和2年)7月10日にも「平成30年7月豪雨から2年を迎えるにあたっての会長声明」を発出して,被災者の住宅確保のための災害公営住宅の建設戸数が少なく入居者希望者の応募の数が募集の数を上回り,多くの被災者が住宅確保の目処がたっていないことから,災害公営住宅の建設戸数の増加を倉敷市に求めた。
 しかし,その後も災害公営住宅の建設戸数は増やされておらず,今なお,279戸(令和3年6月時点)の被災世帯が仮設住宅で暮らしている。そこで,再度,災害公営住宅の建設戸数を増やすことを倉敷市に求める。
 また,災害公営住宅の建設や別の方法による住宅確保には時間がかかることから,仮設住宅の入居期限の延長要件である「自己の都合によらない真にやむを得ない理由により,供与期間内に仮設住宅を退去できないこと」を柔軟に解釈して,仮設住宅から転居できない被災者の仮設住宅の入居期限の延長を認め,住宅の確保をすることを岡山県に求める。
 現在,仮設住宅に入居する被災世帯のうち,住宅の再建の目処が立っている世帯もある一方,住宅再建の目処が立っていない世帯も多くいると思われる。
 そのような世帯に対しては被災者の抱える問題について異なる分野の専門家(例えば福祉の専門家と法律の専門家)がチームを組んで訪問相談を行い,その結果をふまえ自治体職員,社協職員や弁護士を含めた様々な分野の専門家が参加するケース会議で1人ひとりの被災者に必要な支援をオーダーメイドで作っていくこと(災害ケースマネジメント)も倉敷市に提案する。

3 災害関連死の事例をさらに公表すること
 前出の2020年(令和2年)7月10日に発出した「平成30年7月豪雨から2年を迎えるにあたっての会長声明」において,今後の災害における災害関連死の防止に役立つよう死亡原因,死亡に至る経過,今後の課題等を個別の事例ごとに十分に分析するとともに,分析結果を匿名化して公表すべきことを国等に求めていた。
 本年4月に「災害関連死事例集」が内閣府から公開されたのは大きな成果であるが,令和元年度に災害関連死として審査された事例を中心に,災害関連死と認められた事例が73事例,災害関連死と認められなかった事例が25事例の合計98事例しか公開されなかった。災害関連死は,現時点で公表済みの人数で,東日本大震災では全体で3774名,熊本地震の熊本県では218名,平成30年7月豪雨の岡山県では34名が認定されていることからしても98事例がいかに限定的な公開であるかが分かる。
 災害関連死の事例を多く集積していくことが,災害関連死の予防に役立ち,災害関連死の認定においても公開されている先例が多ければ多いほど認定が地域毎にばらつきがでることを防げるのであるから,国に対しては,全国の自治体から災害関連死の事例をまずは500事例を集め,分析と公開を求める。

4 おわりに
 国,岡山県及び倉敷市に対し,以上の要望を行うとともに,岡山弁護士会では,被災者を誰も取り残さないことを実現するために1人ひとりの状況に応じた支援を行う災害ケースマネジメントを実現するべく,行政との連携強化のために「災害時における法律相談に関する協定」を全ての市と5町(合計20市町)と締結しているが,未締結の岡山県及び県内7町村とも早期の協定締結を目指す。
 また,平成30年7月豪雨では十分に準備できていなかった士業連携を実現すべく,現在,当会は,岡山県被災者支援士業連絡協議会準備会に参加しているが,本年度中に岡山県被災者支援士業連絡協議会を発足させ,平成30年7月豪雨の被災者だけでなく,今後の災害の被災者に対しても,ワンストップで様々な専門家の支援が得られる体制を構築することを決意する。

 

2021年(令和3年)7月20日

岡山弁護士会     
会長 則 武   透

 
 


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