(2020.07.10)平成30年7月豪雨から2年を迎えるにあたっての会長声明

1 はじめに
 平成30年7月豪雨の発生から2年を迎えた。岡山県内では,2020年(令和2年)5月末時点で,1386戸・2953人の被災者が今なお仮設住宅で暮らし,多くの在宅避難者も被災したままの自宅で暮らしているなど,多くの被災者はいまだ生活再建・復興の途上にある。
 当会は,被災者支援の一端を担うべく,災害発生直後より,無料電話相談,法律相談センターでの災害相談無料化及び被災地での出張無料相談会を実施し,被災者から1700件を超える相談を受けてきた。また,自然災害債務整理ガイドラインに係る登録支援専門家弁護士の委嘱依頼を201件受け,弁護士の推薦を行っている。災害ADR(災害に起因する紛争の和解あっせん)も実施しており,15件の申立てを受けている。
 当会は,災害時の被災者一人ひとりの「個人の尊重・自己決定権」(憲法13条),「健康で文化的な最低限度の生活」(憲法25条),及び「法の下の平等」(憲法14条)を確保することが弁護士会及び弁護士の使命と考えており,今後も,被災者支援に継続して取り組んでいく所存である。
 他方,上記の被災者支援活動を通じて,①仮設住宅に入居中の被災者のための住居の確保,②災害関連死の分析と分析結果の公表,③避難所の個室の確保,④被災者生活再建支援金の国内全ての災害における支給,以上4点が平成30年7月豪雨からの復興のみならず今後の災害における被災者支援のためにも必要であると痛感したことから,国,岡山県及び倉敷市をはじめとする関係市町村に対し,要望を行うものである。

 

2 仮設住宅に入居中の被災者のための住居の確保を
 倉敷市においては,2020年(令和2年)5月末現在で1290世帯がいまだ仮設住宅に入居中であるところ,先日災害公営住宅の入居者募集が行われ,約170件の申込みがあったが,105戸しか災害公営住宅(新設される災害公営住宅91戸及び改修される市営住宅14戸)の整備が予定されていないため,抽選に外れる約70世帯には倉敷市が賃料の補助を行い民間賃貸住宅への入居となる見込みである旨の報道があった。災害公営住宅は真備町内の各地域に建設予定であるが,被災者が民間賃貸住宅を被災前に住んでいた地域で確保できる保証はなく,多くの被災者が被災前に住んでいた地域での生活を取り戻すことができない事態が生じることが予想される。
 当会としては,被災者が真備町内で以前暮らしていた地域に戻れるように,災害公営住宅の建設数の増加を再度倉敷市に対して要望する(当会は,2019年(令和元年)9月24日付「平成30年7月豪雨における住宅支援に関する会長声明」を発出して,災害公営住宅の建設数の増加を求めている。)。
 被災から2年が経過してもなお,上記のとおり3000人近い被災者がいまだ仮設住宅に入居中であるが,このうち,災害公営住宅に申込みをしていない多数の世帯については,自力での自宅の再建等が可能であるのかも不明である。岡山県に対して,倉敷市以外の被災者も含めた,仮設住宅に入居中の被災者に対し,今後の住宅に関する聞き取り調査を行うことを要望するとともに,岡山県及び関係市町に対し,県と市町との協力の下,申請を待つのではなくいわゆるアウトリーチの方法で,被災者の意向が実現するように支援(自己決定権(憲法13条)の実現)し,意向が実現困難であったり,意向を決めかねていたりする被災者には,その原因を把握し解消するために,1人ひとりに必要な支援を行う災害ケースマネジメントを実施するよう,要望する。
 その中で,被災者本人は意向を決めかねているが,災害公営住宅に入居することが本人の福祉に資するケースも出てくると思われるので,関係市町には,今回の災害公営住宅への申込者以外のためにも災害公営住宅の確保の必要が生じる可能性もあることを考慮して,いまだ設備等が充分とはいえない仮設住宅で暮らす被災者に対する住宅支援を進めることを要望する(健康で文化的な最低限度の生活(憲法25条)の実現)。

 

3 災害関連死の分析と分析結果の公表を
 平成30年7月豪雨災害以前から災害関連死の防止の重要性は理解され,岡山県内の自治体においても災害関連死の防止に努力していたはずであるが,現在,平成30年7月豪雨災害における岡山県内の災害関連死として28名が認定されている。
 平成30年7月豪雨災害を含めたこれまでの災害において,災害関連死を審査する災害弔慰金等審査会の審査内容や審査過程が公開されていないため,災害関連死の実態を知るには,報道された事例か,数少ない公開裁判例によるしかない。多くの災害関連死の事例の内容を知ることができず,これらの事例における反省を活かすことができていないことが,災害が起こる毎に多くの災害関連死が生じてしまう原因の1つであると考える。
 そこで,国は,将来の災害関連死を減らすために,災害関連死の事例を全国の地方自治体から集め,医師,弁護士,福祉の専門家など多様な分野の専門家をもって構成される調査機関を設置し,「どうすればその命を救うことができたのか」という視点から,死亡原因,死亡に至る経過,今後の課題等を個別の事例ごとに十分に分析するとともに,分析結果を匿名化して公表すべきである。このことは,被災者がどのように避難しどのように災害発生後の生活を送っていくか自己決定(憲法13条)していくことにも資する。また,分析結果を遺族が知ることができれば,被災した家族の死が災害関連死に該当する可能性があるか判断する際や,災害弔慰金の申請資料を作成する際の参考にもなる。
 なお,同様の提言を日本弁護士連合会が2018年(平成30年)8月23日付「災害関連死の事例の集積,分析,公表を求める意見書」において行っているが,当会は平成30年7月豪雨の被災地の弁護士会として改めて提言する。
 また,岡山県に対し,今後も発生が予想される豪雨災害における災害関連死の防止に役立つよう,平成30年7月豪雨災害に関して災害弔慰金等審査会を設置した各自治体から,災害関連死の事例を集積し,プライバシーに充分配慮した状態で,公表することを要望する。
 あわせて,今後の災害において,自治体と,医療,福祉,法律等の専門家が連携して,寄り添いボランティアなど市民活動と歩調を合わせて,災害関連死を防ぐ体制がとれるよう岡山県を中心に体制作りをするとともに,災害関連死の認定基準や災害弔慰金制度の存在を周知することで,万一の際に遺族が災害弔慰金を受け取ることができることとするよう,岡山県及び各市町村に要望する。

 

4 避難所に個室の確保を
 当会は,平成30年7月豪雨災害の際には,真備町内の避難所となっている小学校でも無料法律相談会を開催した。新型コロナウイルスがまん延している現在から,当時の避難所を振り返ってみると避難所の状態はいわゆる「3密」といえるものといえ,健康で文化的な最低限度の生活(憲法25条)を確保できている状態とは言いがたい。
 今年も,台風や大雨により避難所への避難がなされることが予想される。避難所の3密状態を避けるために,小学校の体育館などの仕切りのない一箇所に大勢を集めるのではなく,個室の多くある避難所を早急に確保するよう,災害救助法第3条に「都道府県知事又は救助実施市の長は,救助の万全を期するため,常に,必要な計画の樹立, 強力な救助組織の確立並びに労務,施設,設備,物資及び資金の整備に努めなければならない。」と規定されていることを根拠に,岡山県及び各市町村に対し要望する。
 個室を確保するためには,例えば,合宿施設を避難所に指定したり,トレーラーハウスを準備したり,民間のホテルや旅館などの宿泊施設を避難所として借り上げる協定を締結しておくことなどが考えられる。次善の策としては,テントなど隔離スペースを作ることができる設備を整える,ある程度の遮蔽と床からの粉じんを吸い込む量を軽減できる段ボールベッドを準備するといったことも考えられる。

 

5 被災者生活再建支援金を国内全ての災害において支給を
 当会では,2019年(令和元年)5月20日付「被災者生活再建支援金支給申請期間延長及び被災者生活再建支援法改正を求める会長声明」において,半壊家屋及び一部損壊家屋も支援対象とすること,支援金額を大幅に増額することや国による支援金の補助の割合を大幅に増加することなどを要望しているところであるが,平成30年7月豪雨から2回目の大雨の季節を迎えるにあたって,新たに,被災者生活再建支援金を国内全ての災害において支給することを国に対して要望する。
 昨年9月,岡山県新見市において,集中豪雨災害が発生し,同災害は局地激甚災害に指定されたが,新見市内において全壊した住宅が10戸に満たない等の事情により,被災者生活再建支援法の要件を満たさず,被災者に同法に基づく被災者生活再建支援金が支給されなかった。同市においては,前年の平成30年7月豪雨災害では同法に基づく被災者生活再建支援金が被災者に支給されていたために,災害の規模によって被災者に不公平が生じること(法の下の平等(憲法14条)が実現していないこと)を当会としても法律相談などの支援を行う中で痛感した。他にも被害を受けた住宅が多いか少ないか等の,自らでは左右できない事情により,被災者が被災者生活再建支援金の給付を受けられるか否かが決まるのは不合理と言わざるを得ない。
 財政的にみても,被災者生活再建支援金は過去22年間での総支給額が約4800億円(原則国庫負担は2分の1)であり,東日本大震災の10年間の復興予算約32兆円の1.5%に過ぎず,大災害に至らない災害についても支給範囲を広げることは十分可能である。
 そこで,当会としては,被災者生活再建支援法を改正し,国内で発生する全ての災害において被災者生活再建支援金が支給されることとするよう,国に要望する。

 

6 最後に
 当会は,平成30年7月豪雨の発生から2年を経て,改めて法律家として「法は人を救うためにある」ことを心に刻み,平成30年7月豪雨のみならず,現在及び将来において発生する災害にあっても,被災者一人ひとりの「個人の尊重・自己決定権」(憲法13条),「健康で文化的な最低限度の生活」(憲法25条)及び「法の下の平等」(憲法14条)を確保することが成し遂げられるよう,日本弁護士連合会,中国地方弁護士会連合会及び全国の単位弁護士会と協力して支援活動を行うことを誓い,それと共に,被災者支援の活動を続けている自治体及び支援団体との連携を強固にすることで,一人も取り残さない被災者支援活動を継続していく所存である。

以上

 
2020年(令和2年)7月10日

岡山弁護士会     
会長 猪 木 健 二

 
 

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