(2022.08.16)オンライン接見の早期実現を求める会長声明

 昨今の裁判手続のIT技術導入の流れを受けて、「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会(以下「検討会」という。)」が法務省に設置され、刑事手続のIT化に向けた議論が進められた。検討会では、刑事手続において情報通信技術を活用する方策に関し、現行法上の法的課題を抽出・整理したうえでその在り方が検討された。
 そして、令和4(2022)年3月15日、「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会「取りまとめ報告書」」(以下「本報告書」という。)が公表され、同年6月27日に法制審議会に諮問された。
 本報告書においては、弁護人又は弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)と被疑者又は被告人がビデオリンク方式により接見(以下「オンライン接見」という。)することについて、「実務的な運用において現実的に検討しうる選択肢があることについては、認識の共有が図られ」、このような選択肢に関し更なる協議が進められることが期待される旨記載されている。
 弁護人等が被疑者・被告人に対して、できる限り早期に接見し、刑事手続の説明や取調べに対する助言等を行うことは、被疑者・被告人の防御の観点から極めて重要である。他方、自然災害による交通障害等のため対面接見が不可能になるといった、現地での対面接見を前提としていることから早期の接見に困難が生じた事例が存在し、こうした自然災害等による制約は、被疑者・被告人の早期接見の実現を阻む大きな障害となっている。この点、オンライン接見が導入されれば、上記障害の影響を受けることなく、早期接見を実現することができ、被疑者・被告人の重要な権利を保障するうえで極めて有効な手段となる。
 また、オンライン接見は上記障害の除去にとどまらず、被疑者・被告人の留置先施設が弁護人等の事務所から遠隔地にあるため迅速に接見を行うことができない場合や、施設の接見室に十分な数がなく接見渋滞を起こしている場合などにも、簡易・迅速な接見を実現するうえで有効な手段であるといえる。
 なお、検討会の議論においては、オンラインを活用した接見交通について、弁護人等のなりすましや接見禁止等の対象者を同席させるといった罪証隠滅に繋がりうる行為の防止が困難であるといった弊害が指摘されているほか、弁護人等の所在地及び留置施設の双方にビデオリンク方式による接続を行うための設備を整えることの困難さや予算措置が必要といった技術的・政策的な問題点が指摘されている。
 しかしながら、弁護人等が懲戒処分のリスクを冒してまで、第三者に対して、なりすましやオンライン接見同席の機会を与えるといったことは通常考えられないし、刑事手続のIT化議論を進めるうえで新たな設備の導入や予算措置が必要なことは当然の前提である。オンライン接見の検討においては、何よりも被疑者・被告人の人権保障を最大限に拡充するという観点を第一に置いて議論されなければならないはずである。
 以上より、当会は、オンライン接見に関して、速やかに法制審議会による協議が開始され、これが実現されることを求める。

以上

 

2022年(令和4年)8月16日

岡山弁護士会     
会長 近 藤   剛

 
 


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