(2026.03.12)刑事再審手続に関する要綱(骨子)に反対し、 議員立法による再審法改正の実現を求める会長声明

1 法制審議会は、2026年2月12日に「刑事再審手続に関する要綱(骨子)」(以下「要綱(骨子)」という。)を採択し、これを法務大臣に答申した。
 しかし、要綱(骨子)の内容は、えん罪の被害者を適正かつ迅速に救済し、その基本的人権の保障を全うするという、再審法改正の目的に沿ったものではなく、今まで以上にその救済を妨げかねない問題を含んでいる。

2 第1に、要綱(骨子)は、「再審の請求についての調査手続」を設け、裁判所が再審請求について調査した結果、「理由がないことが明らか」と認めるときは、事実の取調べや証拠開示命令を行うことができず、直ちに再審請求を棄却することを義務付けている。
 確かに、濫用的な再審請求を早期の段階で排除する必要性まで否定することはできない。しかし、再審請求の理由を当初の請求段階から的確に構成することは極めて困難である。現に、静岡4人強盗殺人・放火事件(いわゆる袴田事件)や福井女子中学生殺人事件をはじめ、過去のえん罪事件では、再審請求を行った後に新たに開示された証拠や新たに実施した鑑定等が、再審開始決定、再審無罪判決を導いていることが多い。そのような実情があるにもかかわらず、要綱(骨子)のような上記規定が設けられれば、証拠開示等がなされないままに書面審査のみで請求が直ちに棄却されてしまうことが増え、えん罪被害者の救済は今までよりも更に困難になりかねない。

3 第2に、要綱(骨子)は、証拠開示について、裁判所に証拠を提出する方法によるものとし、その対象は「再審の請求の理由に関連すると認められる証拠」であって「その関連性の程度その他の当該再審の請求についての裁判をするために提出を受ける事の必要性の程度並びにその提出を受けた場合に生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認める」ものに限定している。
 過去のえん罪事件からも明らかなとおり、証拠開示が必要とされるのは、無罪につながる証拠は捜査機関側が保持しているからである。ただ、裁判所から見て、当該証拠が無罪につながるものであることが明らかな場合は少ない。当該証拠と他の証拠との組合せや、当該証拠を踏まえた鑑定等によって、無罪につながるものであることがはじめて明らかになることが多いことは、法曹にとって公知の事実といってよい。再審請求人や弁護人の検討、主張のため、必要な証拠は幅広く開示されなければならないのである。
 それにもかかわらず、要綱(骨子)のように、裁判所が再審請求の判断をするために必要かつ相当と認めて証拠の提出を命じない限り、弁護人は、捜査機関が保管する証拠を閲覧、謄写することができないとしたのでは、無罪につながる証拠の発見は極めて困難となる。結果、えん罪被害者の救済は今まで以上に妨げられかねない。
 しかも、要綱(骨子)は、開示証拠について、再審の請求の手続又はその準備等に使用する目的以外での使用を禁止している。これでは、新証拠の獲得に向けた活動において、開示証拠を必要に応じて支援者や報道機関に提供をするなど、これまで許容された再審請求人の支援に資する活動はもちろん、取材活動の自由ないし報道の自由をも萎縮させるおそれがあるところ、この点についても深い懸念を示さざるを得ない。

4 第3に、要綱(骨子)は、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止していない。
 過去の再審無罪事件から明らかなとおり、再審開始決定に対する検察官の不服申立てが、再審請求人にとって防御の負担、手続の長期化といった過大な負担を強いるものとなっている。そもそも、二重の危険の禁止を明文で定める日本国憲法のもとでは、国家による同一事件の訴追は一回限りであり、無罪が確定した事件について有罪判決を求め再度訴追するような不利益再審は禁止されていることから、再審はえん罪被害者の適正かつ迅速な救済を保障する制度と位置付けられている。今回の改正も、その制度目的に立ち返って行われることが想定されていたはずである。そして、その制度下において、ひとたび裁判所の再審開始決定がなされた以上、確定した判決に誤判であることの合理的な疑いが生じ、もってえん罪の可能性が現実化したといえる。そうであれば、えん罪被害者には適正かつ迅速な救済が求められる以上、公益の代表者であり、また誤判について大きな責任を負うべき立場にある検察官の不服申立てを認めることは、上記再審制度の目的にそぐわない。よって、検察官の不服申立ては、禁止されることが至当である。なお、念のため、現行法においては再審公判において検察官が自らの意見について主張する機会が設けられており、再審開始決定における検察官不服申立てを禁止したとしても不都合はない。
 それにもかかわらず、要綱(骨子)は、これまでどおり、再審開始決定に対して検察官が不服申立てを行うことを無制限に認めていることには問題があるといわざるを得ない。

5 当会は、2026年1月15日付けで「法制審議会刑事法(再審関係)部会の審議の進め方に深刻な懸念を表明するとともに、まず議員立法による再審法改正の実現を求める会長声明」を公表し、法務省事務当局が意見集約の方向性を示唆する内容で、恣意的に論点の抽出・整理を行い、これに沿った方向に再審部会の審議を誘導しようとしていたこと等に対して深刻な懸念を表明した。
 しかし、その後の当該部会の審議経過をみても、えん罪の被害者を適正かつ迅速に救済し、その基本的人権の保障を全うするという、あるべき再審法改正の目的に沿わない要綱(骨子)が作成され、これが当該部会の意見として採択されてしまった。
 当会としては、このようなあるべき再審法改正の目的に沿わない要綱(骨子)に強く反対する。
 また、2025年9月11日付け及び2026年1月15日付け会長声明で述べたとおり、まずは、上記再審法改正の目的に沿った、「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(2025年6月18日に衆議院に提出されていた議員立法)を成立させることを求める。

以上

 
2026年(令和8年)3月12日

岡山弁護士会     
会長 土 居 幸 徳

 


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