(2021.02.12)「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」に反対する会長声明

 

1 法務省の出入国管理政策懇談会の下に設置された「収容・送還に関する専門部会」は、2020年(令和2年)6月に「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」(以下「本提言」という。)を公表した。本提言は、2019年(令和元年)6月に発生した被収容者の餓死事件等をきっかけに、収容の長期化に伴う問題の解決をめざして取りまとめられたものである。
 しかしながら、本提言は、司法審査を取り入れる、収容期間の上限を設定するといった長期収容問題の解決に欠かせない制度改正は行わず、外国人に保障されるべき憲法及び国際人権法上の諸権利を侵害する可能性を含む内容であり、当会は、本提言に基づく出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)の改正に強く反対する。

2 まず、本提言は、退去強制令書の発付を受けた者に対し、一定の期日までに退去するよう命じ、その命令に応じない場合に刑事罰を定めることを検討するよう求めている。
 しかし、退去強制令書の発布を受けた者の中には、本国に帰国すれば迫害を受けるおそれのある難民認定申請者や日本で生まれ育った者、日本に家族が住んでいる者など、帰国できない特別な事情のある者も含まれている。現に退去強制令書発布後に支援者らの支援の下で在留のための活動を行った結果、難民と認定された者や在留特別許可を受けた者も相当数いることがわかっている。
 そのような事例があるので、司法判断がない段階で、刑事罰で威嚇して帰国を強制することは、これらの者の裁判を受ける権利(憲法32条、市民的及び政治的権利に関する国際規約第14条1項)を侵害するおそれがある。
 さらに、刑事罰となれば、前記在留のための活動を支援する家族や支援団体、弁護士等の支援者がその共犯とされる可能性も出てくるため、これら支援活動を委縮させる結果となる。

3 次に、本提言は、難民認定申請手続の審査中には退去強制できない規定(送還停止効、入管法第61条の2の6第3項)について、送還の回避を目的とする難民申請者には一定の例外を設けることを求めている。
 そもそもこの送還停止効とは、いかなる方法によっても難民を迫害のおそれのある領域に送還してはならないとする難民の地位に関する条約第33条1項(ノン・ルフールマン原則)に基づくものである。難民認定率が諸外国に比べて極めて低い日本の現状においては、送還停止効の働かない例外を設ければ本来保護されるべき難民が迫害国に送還されてしまう危険性が高く、同原則に反する結果を生じかねない。

4 さらに、本提言は、仮放免された者が逃亡した場合に対する罰則の創設を検討するよう求めている。
 しかし、逃亡した仮放免者に対しては、すでに保証金の没取措置があり、新たな罰則を創設する必要性は乏しい上、退去強制令書の発付に基づく収容に期間の上限が定められていない現状にあっては、罰則があっても収容という重大な人権侵害を避けるために逃亡することを抑止する効果は期待できない。

5 以上の理由より、当会は本提言に基づく入管法の改正に強く反対するとともに、収容の長期化に伴う問題の解決のためには、罰則等による威嚇ではなく、収容について司法審査を取り入れることや無期限収容を改めるなどの、より実効的な制度改正を伴う内容で入管法改正を行うことを求めるものである。

以上

2021年(令和3年)2月12日

岡山弁護士会     
会長 猪 木 健 二

 
 


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