(2026.07.09)最低賃金の大幅引上げ等を求める会長声明
1 中央最低賃金審議会は、本年7月頃、厚生労働大臣に対し、本年度の地域別最低賃金額改定の目安についての答申を行う予定である。例年、各地域の地方最低賃金審議会は、この目安を参考として、地域別最低賃金額を各労働局長へ答申し、その答申を受けて各労働局長が具体的金額を決定する。
昨年、岡山労働局長は、岡山地方最低賃金審議会の答申を受け、地域別最低賃金額を時給1047円とする決定を行っている。
しかしながら、以下に述べるとおり、時給1047円という水準は、未だ余りに低すぎるものといわざるを得ない。
2 最低賃金制度の目的は、賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上等を図ることにある(最低賃金法(以下「法」という。)第1条)。
ところが、時給1047円という水準では、フルタイム(1日8時間)で1か月22日間働いても、月収は18万4272円(年収は221万1264円)に留まる。物価高騰等の我が国の社会状況に鑑みた場合、同金額をもってしては、各種の給付の存在を考慮したとしてもなお、労働者が安定的な生活を送ることは極めて困難である。
岡山県人事委員会が作成した「令和7年4月の標準生計費」によれば、岡山市における標準生計費は単身世帯で13万4600円、2人世帯で17万9980円、3人世帯で19万8770円、4人世帯で21万7550円、5人世帯で23万6320円である。標準生計費は消費支出のみを抽出して算出されていることから、これに非消費支出(総務省統計局「家計調査」によれば2025年4月の消費支出に対する非消費支出の割合は約31.4%とされている)を加算すると、実支出の額は、単身世帯で17万6864円、2人世帯で23万6493円、3人世帯で26万1183円、4人世帯で28万5860円、5人世帯で31万0524円となる。
厚労省の「毎月勤労統計調査」によれば、2025年の一般労働者(常用労働者のうちパートタイム労働者以外の者)の所定内労働時間は145.3時間とされている。上述の実支出を所定内労働時間で割ると、単身世帯で1217円、2人世帯で1627円、3人世帯で1797円、4人世帯で1967円、5人世帯で2137円となる。時給1047円では標準的な生活を営むことができない状態にある。
したがって、上記金額では、法の目的を達成するに足りる水準に達しているとはいえない。
3⑴ 現在の最低賃金法では地域別最低賃金制度が採用されているため、2025年度地域別最低賃金では、最も高い東京都では1226円であるのに対し、最も低い高知県、宮崎県及び沖縄県は1023円であり、203円もの賃金格差が発生している。
2024年度以降、このような賃金格差は、徐々に減少傾向にあるものの、長年にわたって形成されてきた賃金格差は依然として残っている。
岡山県では、隣接する広島県の1085円とは38円、兵庫県の1116円とは69円もの格差が生じている。1日8時間、1か月22日間働くとすると、1か月分の賃金格差は、広島県との間で6688円、兵庫県との間で1万2144円にもなる。
岡山県の人口は2005年をピークに減少を続けているところ、その要因には、就職期にあたる20代を中心として若い世代の県外への転出超過がある。他県との賃金格差が生じ続けている事態を放置すれば、今後、さらに岡山県外に労働力が流出する事態につながりかねない。
都市部への労働力の集中を緩和し、地域に労働力を確保することは、地域経済の活性化の上でも有益であるから、地域間格差が是正されるような最低賃金増額が実現されるべきである。
2024年度地域別最低賃金で最も低かった秋田県は、2025年度には目安額を16円も上回る引き上げを決定し、地域間格差の是正に動いた。政府においても、早急に、全国一律最低賃金制度を実現する法改正を行うべきである。
⑵ 地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費は、最近の調査によれば、都市部と地方の間でほとんど差がないという分析がなされている。これは、都市部以外の地域では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限され、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされることが背景にある。そもそも、最低賃金は、労働者が「健康で文化的な最低限度の生活」(憲法第25条第1項)を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されない。労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない以上、全国一律最低賃金制度を実現すべきである。
4 一方、我が国の経済を支えている中小企業が最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行えるよう、充分な支援策を講じることも必要である。現在、国は「業務改善助成金」制度により、最低賃金の引上げにより影響を受ける中小企業に対する支援を実施している。もっとも、この制度は中小企業にとって必ずしも使い勝手の良いものではなく、これだけで支援策として十分であるとはいいがたい。さらに加えて、社会保険料の減免や減税等の支援策を講じることが有効であると考えられる。
5 2023年8月31日には、岸田首相(当時)は、物価高を上回る賃上げを実現するため、2030年代半ばまでに1500円に引き上げることを新たな目標にすると表明した。さらに石破首相(当時)は、2024年9月、最低賃金1500円の政府目標の達成時期について2020年代中に前倒しをすることを表明し、同年11月に行われた政労使会議でも最低賃金引上げ目標の達成に向けて対応策を取りまとめるよう関係閣僚に指示していた。
ところが、高市首相は、2025年11月14日の参院予算委員会において、最低賃金の政府目標について「必ずいつまでにいくらということを申し上げるわけにはいかない」と述べ、金額と時期の目標をいずれも撤回する姿勢を示している。
上述したように、岡山市における3人以上の世帯の実支出額に照らせば、時給1500円でも標準的な生活を営むことがままならない。さらに様々な要因によって物価が高騰し続けている状況であり、労働者が安定的な生活を営むためには最低賃金の大幅引上げが不可欠である。急速な最低賃金の増加が中小企業等に与える影響を鑑みつつも、遅くとも2020年代中に、時給1500円に増額することを目指すべきである。
6 以上より、当会は、中央最低賃金審議会に対して、地域別最低賃金の格差を少しでも縮小しつつ、最低賃金額の引上げを図ることを内容とする答申を求める。また、岡山地方最低賃金審議会及び岡山労働局長に対しても、最低賃金を2020年代中には少なくとも1500円以上に引き上げるべく大幅増額をすることを求める。
以上
2026年(令和8年)7月9日
岡山弁護士会
会長 佐々木 基 彰









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