(2026.01.15)法制審議会刑事法(再審関係)部会の審議の進め方に深刻な懸念を表明するとともに、まず議員立法による再審法改正の実現を求める会長声明
1 再審法改正に関しては、2025年6月18日、衆議院に「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(以下「議員立法案」という。)が提出され、継続審議となっている。この間、法務大臣の諮問を受けて、法改正等について調査・審議し、意見(答申)を述べる法務省の附属機関たる法制審議会刑事法(再審関係)部会(以下「再審部会」という。)においても、再審法改正の審議が進められている。
2 2025年12月16日には、再審部会第13回会議が開催され、再審部会の議事運営を中立的に補佐する立場にすぎない法務省事務当局により、「今後の議論のための検討資料」(以下「検討資料」という。)が示された(法務省ウェブページにて公開されている。)。
この検討資料は、公表に至る経緯はもちろん、その内容についても、重大な問題があるといわざるを得ない。
(1)検討資料は、当初「意見の集約に向けたたたき台(案)」との標題であったところ、その内容は、再審部会の審議で意見の一致を見ていない論点や十分に議論されていない論点について特定の方向性を示したり、再審部会で審議対象とされた論点の多くが検討項目として盛り込まれていなかったりするなど、再審部会での審議状況を忠実に整理・反映したものとは到底いえないものであった(再審部会の一部委員・幹事がその作成経緯等につき抗議したところ、文書の標題のみ改められた経緯がある。)。
そのような資料が、再審部会の委員、幹事への事前の提示や意見聴取がされることのないまま、法務省事務当局によって報道機関に配布され、記者に対する説明が行われていた。
法務省事務当局は、再審部会の議事運営を中立的に補佐する立場にすぎないのだから、独自に再審部会の意見集約の方向性を定めるような権限はない。そのような法務省事務当局が、意見集約の方向性を示唆する標題で、恣意的に論点の抽出・整理を行い、その内容を再審部会の委員・幹事に先んじて報道機関に公表したことは、これに沿った方向に再審部会の審議を誘導するものと強く疑われる。
(2)検討資料の内容にも重大な問題があり、その一例を挙げるに、検討資料では、審判開始決定をしなければ、検察官に対して証拠の提出を求めたり、事実の取調べを行ったりすることができないとされる(第1の1、第4の3)。そして、審判開始決定をするか否かは、再審の請求について裁判所が行う「調査」のみで判断するとされる(第4の2)。この調査は書面審査のみの手続と解されるが、その結果、再審の請求が理由のないと認めるときは、直ちに再審の請求を棄却する決定をしなければならないとされる(第4の2(2)ア(エ))。
しかし、静岡4人強盗殺人・放火事件(いわゆる袴田事件)や福井女子中学生殺人事件をはじめ、過去のえん罪事件をみると、再審請求を行った後に新たに開示された証拠や新たに実施した鑑定等が無罪を言い渡すべき新規かつ明白な証拠となって、再審開始決定、再審無罪判決を導くことが多い。再審請求人やその弁護人には、再審請求の前に証拠の全てが開示されているわけではなく、どのような証拠が存在しているかがわからないという実情があるため、再審請求時に提出された証拠のみで再審開始決定、再審無罪判決を得ることは極めて困難である。
ところが、上記検討資料によれば、実質的に再審請求時に提出された書面や証拠のみで裁判所が再審事由の有無を審査し、それがない場合は再審請求の棄却を義務付けるということになる。そうであれば、これまで再審請求後の証拠開示によって救済されたえん罪被害者でさえも、仮に検討資料のような法改正後に再審請求をしていれば、救済されないことになってしまう。
このような再審請求者に重大な不利益をもたらす論点が、再審部会ではほとんど議論されていなかったにもかかわらず、検討資料においてあたかも意見の方向性に一致をみたかのように唐突に提示されたことは、重大な問題である。
3 再審法改正の目的は、上記袴田事件や福井女子中学生殺人事件といった具体的なえん罪事件を通じ、えん罪を晴らすのに多大な労力と膨大な時間を要することや、その原因が再審法の不備にあることが明らかになったことから、その不備を是正することにある。
それにもかかわらず、再審部会では、その目的に逆行するような審議の進め方がなされている。刑事法研究者(4名の連名による意見及び135名による声明がある。)、元裁判官(63名による声明がある。)、更には全国の報道機関からも、証拠開示等再審法改正の中核になる事項について、再審部会の議論には深い懸念が相次いで示されているところである。
4 以上の事情を踏まえ、当会においても、再審部会の審議の進め方に対し、深刻な懸念を表明する。また、2025年9月11日付け当会会長声明で述べたところであるが、まずは、上記再審法改正の目的に沿った、再審法改正に係る議員立法案を速やかに審議、可決するよう強く求める。
以上
2026年(令和8年)1月15日
岡山弁護士会
会長 土 居 幸 徳









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