労働者派遣法改正案に三たび,反対する会長声明

労働者派遣法改正案に三たび,反対する会長声明

1 政府は,本年3月13日,国会に三度目の労働者派遣法改正案(正式名称「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律案」,以下「本改正案」という。) を提出した。本改正案は,昨年3月及び9月に国会に提出され,いずれも本格的な審議入りする前に1度目は条文の誤りにより,2度目は衆議院の解散により,それぞれ廃案とされた同名の法案(以下「前回改正案」という。)と,内容をほぼ同一にするものである。
前回改正案は,常用代替防止原則(常用労働者を派遣労働者に置き換えることを防止するという原則)を実質的に放棄しているものであり,当会は,昨年4月22日付け及び同年11月12日付けで,二度にわたり会長声明を発表し,前回改正案に対し強い反対の意思を表明してきた。にもかかわらず,政府は,常用代替防止への有効な対策を全く講じないまま,本改正案を三たび提出したものであり,当会としては本改正案にも強く反対せざるを得ない。
2 労働者派遣法は,制定当時から,常用代替防止原則を採用し,派遣を臨時的・一時的な場合に限定するとともに派遣期間を制限してきた。派遣労働者が,直接雇用の場合と比べて低賃金・不安定な劣悪な労働関係へと置かれてきた歴史があったためである。
しかしながら,前回改正案は,(1)派遣期間の定めのない無期雇用派遣を認め,(2)有期雇用派遣の場合であっても派遣労働者を入れ替えれば事実上無期限に派遣労働者を受け入れることが可能となり,(3)事業所単位の派遣期間制限を超えてしまう場合にも,事業者が過半数労働組合又は過半数代表者の意見聴取さえ行えば事実上無期限に派遣受け入れを継続することができることとなっており,常用代替防止原則を実質的に放棄する内容のものであった。
さらに,派遣先の直接雇用義務も縮小・廃止させており,派遣労働者の保護を後退させるものであった。
3 本改正案は,上記2の前回改正案の特徴をそのまま引き継ぎ,常用代替防止原則を放棄して派遣労働者の保護を後退させる内容のものであり,到底容認できない。
本改正案においては,前回改正案と比べ,「厚生労働大臣は,労働者派遣法の運用に当たっては,派遣就業は臨時的かつ一時的なものであることを原則とするとの考え方を考慮する」との規定が付加されているが,上記2のとおり,常用代替が可能となる仕組みは前回改正案と何ら変わりなく,右規定の追加によっても常用代替が防止されることは全く期待できない。
また,本改正案では,前回改正案と比べ,「雇用安定措置の『派遣先への直接雇用の依頼』を省令ではなく法律で規定する」,「雇用安定措置の『新たな派遣先の提供』が派遣労働者の能力,経験等に照らして合理的なものに限る旨を法律で規定する」との修正が加えられているが,派遣先の直接雇用や新たな派遣先での派遣就業の保障は義務化されておらず,この修正では,雇用安定措置としての実効性は乏しい。
4 以上のとおり,本改正案は,前回改正案と同様,派遣期間制限を廃止し,現行法の直接雇用(努力)義務を定める規定を縮小,廃止している。本改正案が常用代替防止原則を廃棄するものであることは明白である。
本年2月17日に発表された昨年の労働力調査(詳細集計)によると,非正規労働者のうち約331万人もの者が,不本意で非正規労働に従事している実態が明らかとなった。本改正案が成立すれば,常用労働者が派遣労働者に置き換えられ,不本意非正規労働者の増加が加速することが容易に予想される。
本改正案により常用代替が行われると,かつて行われていたように多くの労働者が低賃金・不安定の劣悪な労働関係のもとでの労働を強いられ,ひいては憲法25条の保障する「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を侵害することとなりかねない。
5 よって,当会は,三たび,本改正案に強く反対するとともに,派遣労働者の雇用安定を確保し,常用代替防止に立ち返った労働者派遣法改正を行うよう強く求めるものである。

2015(平成27)年4月22日

岡山弁護士会
会長 吉 岡 康 祐

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