(2019.07.11)ハンセン病家族訴訟判決に関する会長声明

1 2019年(令和元年)6月28日,熊本地方裁判所は,ハンセン病であった者(以下「病歴者」という。)の家族561名が原告となって提訴した訴訟において,ハンセン病隔離政策が病歴者のみならず家族に対しても違法な人権侵害であったことを認める判決を言い渡した。

本判決は,らい予防法及びそれに基づくハンセン病隔離政策が病歴者の家族に対しても違法であるとして,厚生大臣及び国会議員の責任を認めたのみならず,1996年(平成8年)にらい予防法が廃止された後も2001年(平成13年)末までの間,厚生大臣及び厚生労働大臣,法務大臣,文部大臣及び文部科学大臣に,家族に対する偏見差別を除去する義務及びその義務違反の違法があったことを初めて認めた画期的な判決であった。

本判決は,2002年(平成14年)以降は,家族への偏見差別に対するハンセン病隔離政策等の寄与の程度は大きくないとして,同年以降の国の国家賠償法上の違法性を認めなかったものの,未だに社会に無視できない程度の家族に対する偏見差別が残っていること自体は,本判決も認めるところであり,その解消に国が責任を負うべきことに変わりはない。

また,原告のうち沖縄の家族については,本土復帰した1972年(昭和47年)5月15日以降に国の責任が限定され,沖縄と沖縄以外で救済範囲が異なっているが,ハンセン病隔離政策等は戦前の沖縄でも実施されており,米国統治下においても基本的に継続されてきたのであるから,沖縄とそれ以外を区別するべきではなく,今後立法的な解決も視野に入れた対応が必要である。

2 国のハンセン病隔離政策は,家族にも深刻な差別被害をもたらした。家族の多くは病歴者と切り離されつづけ,家族関係の形成が阻害され,さらに秘密を抱えながら生きることを強いられるなどの「人生被害」を受けた。本判決は,このような家族が偏見差別を受ける地位に置かれ,また家族形成を阻害されたとして,家族に共通被害が発生したことを認めたものである。

3 国に対しては,本判決を真摯に受け止め,家族に謝罪を行ったうえで,偏見差別の解消,家族の名誉回復,損害賠償・経済的支援,家族関係回復のための政策等を早急に策定するため,当事者と協議を始めるなど尽力することを求める。

岡山県内には,長島愛生園,邑久光明園という2つの国立ハンセン病療養所が設けられている。当会も,家族の差別問題に正面から取り組んでこなかったことに対する責任を自覚して,家族に対する被害回復,差別偏見除去等の人権救済活動に全力で取り組み,ハンセン病問題の全面解決に向けて,今後も一層の努力をしていくことを改めて決意し,表明するものである。

以 上

2019年(令和元年)7月11日

岡山弁護士会

会長 小 林 裕 彦

 

 

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