(2019.06.27)平成30年7月豪雨から1年を迎えるにあたっての会長声明

1 はじめに

まもなく,平成30年7月豪雨から1年を迎えようとしている。
2019年(令和元年)5月末時点で,なお2912戸・7572人の被災者が仮設住宅で暮らし,多くの在宅避難者も被災したままの自宅で暮らしているなど,多くの被災者はいまだ生活再建・復興の途上にある。
当会においては,被災者支援の一端を担うべく,災害発生直後より,無料電話相談,法律相談センターでの災害相談無料化及び被災地での出張無料相談会を実施しており,被災者から1400件を超える相談を受けている。また,自然災害債務整理ガイドラインに係る登録支援専門家弁護士の委嘱依頼を191件受け,弁護士の推薦を行っている。災害ADR(災害に起因する紛争の和解あっせん)も実施しており,11件の申立てを受けている。
当会は,今後も,災害無料相談,自然債務整理ガイドライン及び災害ADRを中心に,被災者支援に継続して取り組んでいく所存である。

2 被災者の個別事情を踏まえた継続的支援(災害ケースマネジメント)を行うべきこと

前述のとおり多くの被災者がいまだ生活再建,復興の途上にあるところ,経済的ないし社会的に自力再建をするのが困難な被災者ほど復興から取り残されていくことは,過去の災害からも明らかである。そして,発災からの時間が経過するにつれ,被災者一人ひとりの置かれる経済的ないし社会的環境も様々なものとなる。そのため,被災者の抱える生活再建に向けての課題も様々なものとなる。しかるに,現在の被災者の生活再建支援を目的とする制度は,住家の被害の程度や再建方法によって金額が定まる被災者生活再建支援金が中心となっている。
そこで,被災者の生活再建につき,住家の被害のみで判断するのではなく,生活基盤全体の被害状況をきめ細やかに個別把握し,一人ひとりの実情に応じ様々な支援策を組み合わせた個別の支援計画を作成し,被災者が平時の日常を取り戻すまで,金銭的援助にとどまらない人的支援も含め継続的に支援する「災害ケースマネジメント」の取り組みが提唱され,一部の自治体では既に実行されている。
以下に詳しく述べるとおり,当会は,国及び地方自治体に対し,この災害ケースマネジメントを,今般の平成30年7月豪雨による被災者の生活再建支援にあたって広く実施するとともに,法令による災害ケースマネジメントの制度化を求める。また,そのために必要となる法令の改正として,災害時に個人情報を民間支援団体と共有するための条例改正,及び被災者支援制度において職権による制度適用を可能とする法改正を求める。

3 被災者支援の官民連携の実施及び災害ケースマネジメントの法律等による制度化

⑴ 被災者一人ひとりの個別事情に応じた支援である災害ケースマネジメントを,継続的にかつ有効に実施するためには,被災者支援に関わる自治体・民間支援団体・個人ボランティアが個別に活動するのではなく,それぞれの持つ専門知識やノウハウを共有し,連携し一致団結して,被災者支援に取り組む必要がある。
たとえば岡山県内においても,岡山市では, NPO法人岡山NPOセンターに委託をして,災害から約2ヶ月後に,床上浸水被害以上の約1800世帯の調査を行ったり,災害から約8ヶ月後には,支援制度を利用していなかった約300世帯を訪問し,約200世帯に支援制度の申請を促したりするという災害ケースマネジメントの先進的事例も行われている。しかし,全県的に見れば,そのような取り組みは限られたものにすぎない。
そこで,岡山県内の地方自治体に対し,平成30年7月豪雨及び今後の災害時において,より積極的にNPO法人,ボランティア団体及び士業団体などの民間支援団体と連携して被災者支援を行い,継続的に災害ケースマネジメントを実施することを要望する。
⑵ 災害ケースマネジメントを円滑に行うためには,法令による制度化が望ましいところ,2016年(平成28年)に鳥取中部地震に見舞われた鳥取県は,2018年(平成30年)に「鳥取県防災と危機管理に関する基本条例」の一部を改正し,「被災者の生活復興支援体制の構築」を明文化し,災害ケースマネジメントを条例により制度化している。
国においては,これまでの各地での災害ケースマネジメントの先進的事例を集約検討した上で,今後の災害時に,全国の被災地で,官民が連携して災害ケースマネジメントによる継続的かつ充実した被災者支援を円滑に行うことができるよう,法律による制度化を行うべきである。
また,岡山県内の地方自治体においても,災害ケースマネジメントの実施主体として,法律による制度化に先立って,早急に条例による制度化が行われるべきである。

4 災害時に個人情報を民間支援団体と共有するための条例改正

現在,被災地域を離れ,みなし仮設住宅で暮らす被災者が多く,民間支援団体は個々の被災者に支援を届けることに苦労している。また,倉敷市では被災者見守り・相談支援事業を行い,仮設住宅の被災者の生活状況等を把握しているが,その情報は倉敷市又はその委託を受けた団体しか共有することができず,ほとんどの民間支援団体と情報共有がなされていない。災害ケースマネジメントの実現には,官民のネットワークの構築が不可欠であり,その前提として,ネットワーク内での個人情報の共有が必要となる。
そこで,災害ケースマネジメントを実現するために,災害時に個人情報を自治体と民間支援団体とで共有できる仕組み作りが必要である。具体的には,災害のために別個の個人情報保護に関する条例を制定するか,現在の個人情報保護条例を改正して,自治体が保有する被災者の個人情報について,災害時(復興期を含む)に本人同意がなくても被災者支援のために民間支援団体と共有できるようにすべきである。
現状であっても,岡山県内の多くの自治体の個人情報保護条例において,市民の生命,身体又は財産の保護のため,緊急かつやむを得ないと認められるときや,実施機関が個人情報保護審査会の意見を聴いて必要と認めたときには,自治体が外部の民間団体と情報を共有することは認められている。しかし,災害時に上記例外要件に当たるか否かの判断を現場の担当者に求めることは困難であるし,民間支援団体に開示が必要になる度に,外部有識者委員を中心に組織される個人情報保護審査会を開催することは極めて難しい。さらに,災害発生からしばらく時間が経過したいわゆる復興期には,「緊急」や「やむを得ない場合」といった要件を満たさないと判断される可能性もある。
したがって,現状の規定では十分とは言いがたく,災害のために別個の個人情報保護に関する条例を制定するか,現在の個人情報保護条例を改正して,明確に災害時(復興期も含む)において,被災者支援のために,自治体が本人の同意なくして民間支援団体と本人の個人情報を共有できる旨の規定を設けておくことが必要であると考えられる。

5 職権による被災者支援制度利用を可能とする法改正

被災者支援の制度の多くは申請主義をとっており,自治体が制度の対象となる被災者の存在を把握していても,被災者自身の申請がなければ,制度が利用できない仕組みとなっている。自治体が被災者に情報提供をして,申請を促すべきことは当然であるが,働きかけにも限界があり,支援の必要性が高いにもかかわらず支援が受けられない被災者も生じうる。「災害ケースマネジメント」の実現のためには,被災者の申請を待つのではなく自治体が積極的に支援をする必要がある。
そこで,各種被災者支援制度において,被災者が制度を利用することが可能であり,かつその必要があるのに,当該支援制度の利用申請をしない場合には,措置などにより自治体が職権で被災者の制度利用を可能とする仕組みを設ける法改正を,国に要望する。

6 最後に

当会は,平成30年7月豪雨から1年を迎えるにあたり,改めて法律家として「法は人を救うためにある」ことを心に刻み,被災者一人ひとりが真の生活再建・復興を成し遂げられるよう支援活動を行うことを誓い,それと共に,被災者支援の活動を続けている自治体及び支援団体との連携を強固にすることで,将来に向かって一人も取り残さない被災者支援活動を継続していく所存である。
以上

2019年(令和元年)6月27日
岡山弁護士会
会長 小 林 裕 彦

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