医学部入学試験における女性差別の改善等を求める会長声明

東京医科大学は、2018年(平成30年)8月7日、内部調査報告書を公表し、少なくとも2006年(平成18年)度以降の一般入学試験の小論文の採点において、女性受験生よりも男性受験生を優先するべく、全員の得点に係数をかけたうえで、属性に応じた一定の点数を加算するとの得点調整を継続的に行っていたことを明らかにした。
 その後、国が行った緊急調査の最終まとめによれば、順天堂大学、東京医科大学、北里大学については、性別を理由とした取り扱いの差が設けられており不適切である、聖マリアンナ医科大学については、一般入試における調査書等の点数について、女性より男性の平均点が1.8倍から2.6倍となるなど、男女間で大きな差がついており、不適切である可能性が高いとされた。
 このような取り扱いの差は、女性受験生を女性であることのみを理由として不利益に取り扱うものであり、尊重されるべき大学の自治を考慮したとしても、大学の有する公共性に照らし(教育基本法第8条、私立学校法第1条)、法の下の平等を定める憲法第14条第1項、教育上の性別による差別的取扱いを禁じた教育基本法第4条第1項及び教育の分野において女子に対する差別撤廃の措置を締約国に求める女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約第10条の趣旨に明らかに違反し、断じて許されない。
 また、女性受験生の能力に応じて等しく教育を受ける権利(憲法第26条第1項)、ひいては医師という職業選択の自由(憲法第22条)を侵害するものである。
 東京医科大学の内部調査報告書においては、同大学が不公正な得点調整を行っていた理由として「女性は年齢を重ねると医師としてのアクティビティが下がる」との考えがあったことが挙げられている。
 2017年(平成29年)8月に日本医師会が行った調査によれば、女性医師の休職、離職の要因は出産と育児にあり、また、育児中の女性医師の多くが短時間勤務を選択していることが明らかとなっているところ、これは女性が家事や育児を担うべきという性別役割分業に根ざした社会構造が大きく関わっていると考えられる。
 東京医科大学の上記考えについても、同様の社会構造に根差したものであると考えられるが、このような考えは、男女が社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うという男女共同参画社会の形成に逆行するものであり、不公正な得点調整を正当化する理由とはならない。
 女性医師の休職等への対処は、男女を問わず、医療の現場におけるワーク・ライフ・バランスを確保できるための体制を整え、仕事と生活の両立支援を充実させることにより図られるべきである。
 また、国が行った緊急調査において、性別による差別的取扱いを行ったものとして不適切であるとされた順天堂大学、東京医科大学、北里大学は、入学試験受験生に対する追加合格者の発表を行ったが、追加合格を認めた年度以前の受験生に対する救済措置は発表されていない。
 そして、不適切である可能性が高いとされた聖マリアンナ医科大学は、属性による一律な評価は行っておらず、受験生を個々に総合評価した結果を基に入学者選抜を実施しているとの見解を発表しており、文科省が第三者委員会等の設置及び調査を指導している。
 そこで、当会は、国が行った緊急調査の最終まとめにおいて、性別による差別的取扱いを行ったものとして不適切であるとされた順天堂大学、東京医科大学、北里大学に対し、調査の結果、性別を理由による差別的取扱いを行われたために、同大学に合格することが出来なかったと判明した受験生全員に対する救済措置の実施、是正再発防止策の策定及び実施を行うことを求める。
 また、国が行った緊急調査の最終まとめにおいて、不適切であるとの可能性が高いとされた聖マリアンナ医科大学に対し、第三者委員会の設置及び同委員会による、受験者の属性により合格点に差異が生じている理由の調査及び公表を行うことを求める。
 最後に、国に対し、医学部入試における性別を理由とする差別的取扱いにつき、実効性のある再発防止策の策定と実施を求めるとともに、今回の問題の背景となった医師の仕事と生活の調和を図るため、医師が性別に関わりなくその個性と能力を十分に発揮して働き続けられる労働環境を実現させるための適切な措置を採ることを求める。
以上
2019年(平成31年)2月13日

岡山弁護士会     
 会長 安 田   寛

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